天体写真をやっていると、天体の位置を表すのに2通りの表し方があるのに気づきます。
水平座標系と赤道座標系です。
ですが天文の始めたてだとどっちの座標を使えばいいのかわからなくなり、混乱することもあると思います。
そこで今回は両方の座標の特徴と、天体の位置を正確に表すことのできるJ2000.0について話します。
水平座標系とは
たとえばオリオン大星雲は東京だと、2025/1/6の夜22:00に高度+48°44'に、方位角は175°39'の方向に来ます。
ここで高度が+48°44'というのは、地平線の上48度44分角にあるという意味です。
60分角が1度なので、44分角は大体0.73度になります。
大体49度の目線を見上げた先にオリオン大星雲があるという意味ですね。
そして方位角が175°39'というのは、真北の方角から時計回りに175°39'回った方角にあるということです。
なのでほぼ南の東寄りですね。
なのでこの場合、ほぼ南の49度の目線のところにオリオン大星雲があるよ、ということになります。
この高度と方位角を使った天体の位置の表し方は水平座標系と言われています。
これなら天体の位置がわかりやすく伝わりますね。
「南の大体50度の高さにいるよ」と言われたら理解がしやすいです。
ですが、水平座標系には問題点が2つあります。
天体はずっと動いてる
ひとつめの問題点は、天体はずっと動いているということです。
星は東から昇って西へと沈んでいきます。
北極星に近い星だとずっと沈まずにぐるぐる回っていますが、それでも東の方向からのぼってきて西の方向へ下がっていくのは共通です。
そうなると、オリオン大星雲が2025/1/6の夜22:00に高度+48°44'に、方位角は175°39'の方向に来ると言っても、それ以外の時刻では通用しません。
その度に調べ直さないといけなくなります。
さらに地球は自転だけでなく公転もしているので、2025/1/7の22:00になったらちょっとだけ位置がずれます。
つまり水平座標系は「ある一瞬」でしか使えない位置の表し方なのです。
どこにいるかで天体の見え方が変わる
また、星は見る場所が違えば見え方が違ってきます。
東京での星の見え方と沖縄での星の見え方は全然違います。
なのでオリオン大星雲が2025/1/6の夜22:00に高度+48°44'に、方位角は175°39'の方向に来るというのは東京でしか通用しないのです。
また、時差も考慮しないといけません。
東京とオーストラリアでも全然違ってきます。
なので水平座標系は自分のいる場所のある一瞬で天体の位置を表すのには便利ですが、天体の位置を世界中の人と共有したり、あるブラックホールが星空のどの位置にあるのかを表すことには使えません。
天体はずっと動いていて、しかも見る位置によって見え方が違う。
それなのにどうやって天体の位置を表したらいいんだろう…
そこで編み出されたのが赤道座標系です。
赤道座標系とは
赤道座標系というのは水平座標系よりちょっと難しいです。
ですが慣れればすごく便利なので解説します。
まず、天体が動く方向というのは決まっています。
星は東からのぼり、西へと沈んでいきます。
それはなぜかというと、地球が自転しているからです。
地球は24時間で1回転しています。
なので24時間後には天体は必ず同じ位置に来ます。
また、自転のスピードは一定なので天体は12時間経つと真反対の方にいきます。
それを利用して座標を作ったのです。
天の赤道って何?
ここで、天の赤道というものが必要になります。
地球は自転軸に沿って自転しています。
自転軸は北極点から南極点へと貫いていますね。
北極点や南極点に行くと夜空が止まって見えるのは、北極点や南極点は自転の影響を受けないからです。
風車の中心の軸が止まって動いていないのと一緒です。
反対に、赤道では自転の影響を大きく受けます。
赤道で夜空を見上げると、星が東の地面から垂直に出てきて西の地面へ垂直に沈んでいくように見えます。
それは地面と地軸が水平になるからです。
赤道にいるとき、地軸が地面と水平になり星が垂直にのぼってきて垂直に沈んでいきます。
このとき、東から天頂を通って西へと回る大きな線があるように思えます。
この青い線です。
(星図アプリ Sky Guide より)
東からのぼってきた星はこの線を通り、そして西へと沈んでいきます。
これこそが天の赤道です。
天の赤道は星が通っていく軌道のひとつに思うかもしれませんが、実はすべての星は天の赤道と平行に回転しているのです。
つまり天の赤道を基準にしたとき、そこから何度離れているかは常に一定です。
点と直線の最短距離はひとつに定まります。
それの角度版、つまり天体と天の赤道の最短の角度がひとつに定まります。
これが赤緯です。
赤緯は英語でDeclinationなので、赤緯はDECとも言われます。
δ(デルタ)と書かれることもあります。
天の赤道より北側(こぐま座側)を正の角度、南側(ろくぶんぎ座側)を負の角度とし、-90°から+90°までで赤緯を表します。
赤緯が一定であれば、あとはどの地点から天の赤道をスタートさせるかですべて座標が決まります。
ここで昔の人は、黄道(こうどう)と天の赤道の2つの交点のうち、春分のとき太陽がいる位置(うお座方向)を赤経0と定めました。
黄道とは太陽の通り道で、地球の公転方向と同じ方向を向いています。
その赤経0の地点から太陽が移動していく方向を赤経の向きと定め、24時間で一周するようにしたのです。
赤経は英語で Right Ascension なので、赤経はRAとも言われます。
α(アルファ)と書かれることもあります。
まとめると、星の赤緯は常に一定です。
そして地軸に垂直な軌道のうち最も長いものを天の赤道と定め、春分のときの太陽の位置を0時と定めました。
赤経の向きはうお座からおひつじ座の方向へと流れていきます。
赤経は0時から24時まであり、1時間が15°に対応します。
これが赤道座標系です。
赤道座標系のいいところは、時刻や場所に関係なく天体の位置を記述できることです。
天体の赤緯は常に一定で、赤経の基準も定まっているので天体の位置がすぐにわかります。
これなら時間と場所に左右されずに天体の座標を表現することができそうです。
ですが、赤道座標系にはひとつだけ問題があったのです。
地軸の中心も動いてる
実は、地軸の中心も少しずつ動いているのです。
つまり、時が経つにつれ天の赤道が変わっていくことになります。
これは歳差運動(Precession)と言われており、地球が太陽や月の重力を受けて少しずつ地軸がずれていく現象です。
数千年の時をかけて少しずつずれていくのですぐには影響が出ませんが、少しの誤差も許されない天文学の座標としては大きな欠陥です。
現在の天文学と数千年後の天文学では座標が全く違うことになっているでしょう。
これでは困るのでJ2000.0が考え出されました。
J2000.0とは
J2000.0とは、2000年の1月1日時点の天の赤道を基準にして赤経赤緯を定めた座標です。
現在では赤経赤緯と言えば、何も書かれていなかったらJ2000.0のことを指します。
厳密には 2000年1月1日12:00 TT (地球時) を基準にしたのがJ2000.0です。
地球時の話は難しいので調べてみてください。
簡単に言うと、地球時(TT)は世界協定時(UTC)より64秒くらい遅いです。
国際的な時間の基準にも色々あるということですね。
これで完全に統一された天体の座標が完成されました。
今では天体の位置はJ2000.0の赤経赤緯で表すのが普通です。
赤経赤緯を知っていれば、カタログにもないような天体を座標を頼りに探すことができます。
便利なので使ってみてください。
それでは。